災害レジリエンスとは何でしょう
「レジリエンス」という言葉は、元々物理学で使用されていたもので、「回復力」や「弾力性」「復元力」を指します。
これが心理学やビジネスなどでは、精神的な「回復力」を意味し、困難や危機的な状況に直面した際に、いち早く回復したり適応したりする力を指します。
レジリエンスは広く、「環境の変化に対する適応力」という形で用いられます。
そして、災害レジリエンスは、災害発生時にどれだけ迅速に対応し、復旧や復興を行えるかという能力に関わるものです。これには、災害への備えや発生後の迅速な対応力、そして被災後の回復力が含まれます。
災害レジリエンスは、宮城県仙台で行われた「第3回国連防災世界会議」(2015年)において、災害に対してコミュニティや社会がその機能を維持・回復し、効果的に影響を防ぐ能力として定義されました。
災害レジリエンスの3要素
災害レジリエンスを考える上で重要な要素には、「予防力」「順応力」「転換力」の3つがあります。
予防力(予防策)
予防力は、災害の影響を最小限に抑えるための事前対策を指します。具体的には、建物の耐震化や不燃化、企業の事業継続計画(BCP)の策定などが挙げられます。こうした予防策が機能すれば、災害が起きても地域社会は通常の活動を維持できるとされています。また、予測に基づいた予防策の強化が大切です。
順応力(順応策)
順応力は、予想外の大きな災害に対して、社会のシステムを柔軟に変更し、被害を最小限に抑えるための対応力を指します。例えば、堤防が決壊する危険がある場合に避難所に避難したり、災害発生時に病院を避難所や医療機関として機能させたりすることが順応力に当たります。
転換力(転換策)
転換力は、予想を超える災害に対して、従来の方法では対応できない場合に、根本的な変更や対策を行うことです。例えば、津波の被害を受けた地域で土地の利用方法を見直し、高台に移転するようなことです。順応策では解決できない場合、社会全体を抜本的に変えることが求められます。
日本の災害レジリエンス
日本でも災害に対するレジリエンス強化が進められており、2013年に「国土強靱化基本法」が施行され、強靭な国づくりを目指しています。
この国土強靱化は、自然災害に強い国や地域をつくり、災害時でも人命保護や社会の維持、復旧を迅速に行える体制を整えることを目指しています。
また、ナショナル・レジリエンス(国土強靱化)では、災害時に重要インフラを維持し、迅速に復旧するための取り組みが進められています。
具体的な例としては、エネルギー供給や交通ネットワークの確保、生活基盤となる情報通信機能の維持などが挙げられます。これらはすべて、災害による影響を最小限にし、社会全体を安全に守るための重要な取り組みです。
国土強靱化とは、地震や津波、台風といった自然災害に耐える強い国や地域づくりを進める取り組みを指します。
この取り組みは、国家のリスクマネジメントを兼ねており、災害に強い国を作るとともに、日本の産業競争力を強化し、安全で安心な社会を実現するための人々の力を育むことを目指しています。最終的には、国民の命と財産を守ることが重要な目的となっています。
国の取り組み例
ナショナル・レジリエンス(国土強靱化)においては、以下のような対策が進められています。
防災のための重要インフラの維持
・大規模浸水や土砂災害、地震、津波などの被害を防ぐための対策
・災害時の救助・救急活動、医療対応力の強化
・避難に必要な情報の確保
国民経済と生活を支えるインフラの維持
・エネルギー供給(電力等)の安定確保
・食料やライフライン、サプライチェーンの確保
・交通網の確保(陸海空)
・生活基盤となる情報通信の確保
これらの対策を基盤に、全国各地でさまざまな取り組みが行われています。
地域の取り組み例
地域ごとにも独自のナショナル・レジリエンスへの取り組みが進められています。例えば、
岡山県では、防災おやこ手帳を制作し、避難所や避難経路、持ち出し物の確認をしやすくしています。
北海道札幌市では、「札幌時計台ビル」内に、災害時にテナントが3日間滞在できる設備を整えています。具体的には、充電スペース、休憩所の設置、物資支援、情報提供などが行われています。また、ビル内のテナント従業員で構成された「保育園対応チーム」が、災害時に保育園児の安全を守る役割を担っています。
個人でできる災害レジリエンスの取り組み
私たち個人ができる災害レジリエンス向上のための取り組みは、いくつかあります。たとえば、
– 食料や飲料水を備蓄する
– 避難場所や避難経路を確認する
– 家具や家電の固定
– 災害情報を提供する自治体のメールサービスに登録する
– 家族の安否確認方法を共有する
– 防災訓練に参加する
– 家屋の耐震化を行う
– 家具の配置を工夫する
– ハザードマップを確認する
これらはすぐに実践できるものも多いため、日常的に災害への備えを意識することが大切です。
日本は世界でも有数の地震多発地域であり、地震対策は重要な防災課題のひとつです。個人ができる地震への備えとして、以下のような対策が挙げられます。
家具や家電をしっかり固定する
家具の配置を工夫し、倒れにくい環境を整える
住宅の耐震性能を向上させる
避難経路を事前に確認し、安全なルートを確保する
地震発生時に取るべき行動を把握する
特に、住宅の耐震性能は地震による被害を大きく左右します。
住宅の耐震と制震
マンションや集合住宅では、耐震対策が施されていることが一般的です。一方、戸建て住宅については、新築の場合は一定の耐震基準が定められており、最低限の耐震性は確保されています。しかし、築年数が経過した住宅では、耐震補強を行うことで安全性を高めることが可能です。
近年では、耐震性を確保するだけでなく、さらなる地震対策として「制震」の技術を取り入れる方法も注目されています。制震装置を設置することで、地震の揺れを効果的に抑え、建物への負担を軽減できます。現在、多くの住宅メーカーや工務店で制震装置を標準装備とする動きが進んでおり、「耐震+制震」が新たなスタンダードとなりつつあります。
制震装置は主に新築住宅に導入されることが多いですが、後から既存の住宅に設置できる製品もあります。これにより、すでに建てられた住宅でも揺れに強い構造へとアップグレードすることが可能です。
まとめ
地震に対する備えは、国や自治体だけでなく、企業や個人レベルでも積極的に進めることが大切です。住宅の耐震性を確保することはもちろん、さらに「制震」技術を取り入れることで、より安全な住環境を整えることができます。地震リスクが高まる今、防災力を強化し、被害を最小限に抑えるための対策を進めていきましょう。